<目次>
1.やっかいごとだらけの人生
2.マインドフルネスの定義
3.マインドフルネス8週間コースの始まりとその応用
4.うつの再発予防を始めとした、様々な対象・分野への応用とコンパッションへの着目
5.マインドフルネスに基づくプログラムの共通要素と変動する要素
6.講師のトレーニングとそのスキルの評価
7.安全性・多様性への配慮
8.参考文献

やっかいごとだらけの人生

 私たちの人生には楽しいこともあれば、辛いこともあります。思い通りにならず辛いことは、あげ始めるとキリがないでしょう。例えば、以下のようなことがあるかもしれません。

  • 忘れたいのに、職場で起きた嫌な出来事が頭から離れない。
  • 行かないといけないのに、仕事に行きたくない。
  • お金が必要なのに、十分な資金がない。
  • 健康で自律していてほしいのに、家族の世話をしないといけない。
  • 良い関係を築きたいのに、人間関係がうまくいっていない。
  • ずっと一緒にいたかったのに、大切な人を失った。
  • 毎日を楽しく過ごしたいのに、日常生活にハリがない。

 実際、厚生労働省の実施した国民生活基礎調査の概況 (2019b) によると、入院者を除く12歳以上のうち、半数近くが悩みやストレスがあると回答しており、同調査で、20歳以上の回答者の10.3%が、気分障害や不安障害に該当する程度の精神的な苦痛を経験しているとされています。その原因も多岐にわたり、仕事、収入・家計・借金等、病気や介護、人間関係、生きがいの問題などが上位に上がっています (厚生労働省, 2019a)。

 その反面、日常の中の些細な喜び、誰かの暖かさ、やさしさ、空が青いとか花がきれいといった、嬉しい体験、有り難い体験ということも日常の中で経験をしていることもあるでしょう。しかし、多くの場合、そのことにはあまり気が付かずに生活しているかもしれません。

 私たちは、「人生とは流動的なもので、永久に続くと思っていることでも常に変化しており、実際にはほんの一時的なものでしかない」(Kabat-Zinn, 1990, 春木訳 2007, p. 8) ことに気づかず、思い通りにならない人生にストレスを感じています。マインドフルネスストレス低減法 (Mindfulness-Based Stress Reduction: MBSR) を開発したJon Kabat-Zinn博士は、このことを、著書のタイトル”Full Catastrophe Living”(「やっかいごとだらけの人生」:書籍邦題「マインドフルネスストレス低減法」)で表現しました。
 思い通りにならない人生を上手に生きていく方法として、誰にでも取り組める可能性のあるものが、マインドフルネスです。

マインドフルネスの定義

 マインドフルネスとは、仏教で扱われる言語であるパーリ語のサティ(sati)を訳した言葉で、漢字では「念」と表現されます。サティとは「ものごとを頭にインプットして記憶する作用、アウトプットして思い出す作用、そして忘れずに憶えている状態を包括する心理的な働きを意味し、特に瞑想修行の場面においては、何らかの対象に意識を向けて心に保持、顕在化させておく働きを意味」(林, 2021, p. 15)するとされています。MBSRの開発者であるJon Kabat-Zinn博士は、マインドフルネスを、「現代の生活とも深く関わりのある古来の仏教の行のこと」(Kabat-Zinn, 1994 田中監訳 2012, p. 3)とした上で、「意図的に、今この瞬間に、評価にとらわれない方法で、注意を向けることにより生じる気づき」(Kabat-Zinn, 2013, p. xxxv) であると定義しています。

 これはよく参照されるものの一つですが、文脈によってマインドフルネスの定義は異なる場合があり、以下ではFeldman & Kuyken (2019, p. 10) を参照して、その他のいくつかの定義をご紹介します。これらの定義は、心理学、あるいは仏教の観点からなされたものです。

 Shapiro (2009) の定義によれば、マインドフルネスとは、「オープンで洞察力を持って、この瞬間に生じるあらゆることに、意図的に関心を向けることにより生じる気づき」です。彼女は、注意、意図、(オープンでジャッジしない)態度を重要な要素として挙げています。
 その他にも、Feldman & Kuyken (2019, p. 10)は以下のような定義を紹介しています。

  • 「今この瞬間の気づき、心が今ここにあること、目覚めていること」(Goldstein, 2013, p. 13)
  • 「鏡のような思考。マインドフルネスとは、この瞬間に起きていることだけを、その起きているそのままに映し、思い込みがない状態」(Gunaratana, 2002, p. 139)
  • 「知覚された連続的な瞬間における、私達に対して、そして、私達の中で実際に生じていることについての、クリアでひたむきな気付き」(Nyanaponika Thera, 1962, p. 32)
  • 「どのような体験であれ等しくオープンに接し、 多くの場合ゴール志向であり、何らかの形で物事があるがまま以上であってほしいと望むことに関連する、習慣的、自動的、認知的ルーチンの支配から自由である、瞬間ごとの自らの体験への完全な気付き」(Feldman & Kuyken, 2019, p. 10; Teasdale & Chaskalson, 2011a, 2011b)。

 様々な定義がありますが、マインドフルネスは、気づきや注意のあり方、そして体験への関わり方が2つの主要な要素であると考えられます (Bishop et al., 2004)。例えば、いま、じっくりと部屋の中を見渡してみると、いつも気づかないことに気がつくかもしれません。それは、それまでもそこに存在していたものですが、意図的な注意を向けたことにより意識の中に顕在化したものです。 このように、マインドフルな気づきを通じて、認知される体験は変化します。

マインドフルネス8週間コースの始まりとその応用

 前述の通り、マインドフルネスとは、仏教で扱われる言語であるパーリ語のサティ(sati)を訳した言葉です。Jon Kabat-Jinn博士は、自らの仏教瞑想の実践中に、瞑想の実践により体の痛みを軽減することが出来ることに気づき、それを慢性的な身体の痛みに苦しむ人に対して活用できないかと考え、「誰にでも実践できるひとつの方法に落とし込」むことで、米国のマサチューセッツ大学医学部においてMBSRを開発しました(Goleman & Davidson, 2017 藤田訳 2018, Kabat-Zinn, 1990 春木訳 2007)。

 2017年版のMBSRカリキュラム(Santorelli et al., 2017) によると、受講者は、主に瞑想や日常生活の体験に気づくエクササイズを中心に、8週間の間、毎週、2.5時間〜3.5時間のクラスおよび週末の1日の合計9回のクラスに参加することと、ヨガ、座る瞑想、ボディスキャン、歩く瞑想などのフォーマルな実践(時間を決めて行う瞑想実践)、および日常生活におけるインフォーマルな実践(ふとしたときに呼吸に伴う感覚に気づくなど、日常生活の中で気づきを活用する実践)を行うことを求められます。また、プログラムに参加する便益として、①気付きや集中の高まり、②困難な体験や痛み、苦しみなどへより上手に関わる新しい方法を学ぶこと、③自らをよりよくケアすることなどが挙げられてています。

 海外では、資格のある、または公的に登録された臨床家の講師により教えられる場合や、医師により参加を勧められる場合、保険会社によりMBSRの受講料の支払いを受けられるケースがあり(Woods & Rockman, 2021)、社会的な信頼度が高まっていることが伺えます。その背景には、多くのMBSRの無作為化比較試験や系統的レビューが実施され、元々のMBSRの対象であった慢性疼痛の患者のみならず、メンタルヘルスやストレスへの対処など幅広い面で効果があるというエビデンスが蓄積されていることが考えられます(研究のエビデンスについての詳細は”1.マインドフルネスの介入研究の概要“および”2.MBSRの効果のエビデンス“の項目を参照ください)。

 日本ではこのような補助の取り組みが十分に進んでいるとは言えませんが、日本の代表的な臨床試験の登録データベースであるUMIN Clinical Trials Registry (UMIN-CTR) (*1)ではマインドフルネスの臨床試験の登録数は増加傾向であり(図1)、今後出版される研究が増えることで、社会的な信頼度が高まっていくことが期待されます。

(*1) UMINは、University hospital Medical Information Network(大学病院医療情報ネットワーク)の略称である。UMIN-CTRには、以下のURLからアクセスすることができる。
https://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm

うつの再発予防を始めとした、様々な対象・分野への応用とコンパッションへの着目

 このように慢性疼痛患者を対象に医療の世界で始まったMBSRから、様々な分野で活用されるマインドフルネスのプログラムが生み出されました。代表的なものとして、まず挙げられるのが、マインドフルネス認知療法(Mindfulness-Based Cognitive Therapy: MBCT)です。

うつの再発予防としてのMBCT

 1990年代に入ると、うつの再発予防のため、Zindel Segal博士, Mark Williams博士, John Teasdale博士により、MBCTが開発されました (Segal, Williams, & Teasdale, 2002)。MBCTは、MBSRの中心的エクササイズや実施フォーマットをベースに、認知行動療法の要素を取り入れたプログラムです。研究によると、うつの再発予防に対しては、抗うつ薬と同等の効果があり (図2; Kuyken et al., 2015) 、イギリス国立医療技術評価機構ではうつの再発予防の主たる治療法として推奨され (National Institute for Health and Clinical Excellence, 2022)、アメリカ精神医学会では補完・代替医療として着目されています (Freeman et al., 2010)(MBCTの研究のエビデンスについての詳細は”1.マインドフルネスの介入研究の概要“および”3.MBCTの効果のエビデンス“の項目を参照ください)。

図2. 2022年8月18日 Willem Kuyken博士
Internatinal Mindfulness Center Japan向け講演会資料

その他のプログラム

 その他にも、MBSRをベースにしたプログラムとして、様々なプログラムが開発されています。イギリスのマインドフルネス講師協会にあたるBAMBA (British Association of Mindfulness-Based Approaches) では、マインドフルネスに基づくコース(mindfulness-based courses)として、いくつかの要件(*1)を満たす9つのプログラムを紹介しています (British Association of Mindfulness-Based Approaches, n.d.)。この中には、MBSRやMBCTに加え、痛みを抱える人(Mindfulness-Based Pain Management [MBPM], Mindfulness for Health; Burch & Penman, 2013)や、出産や子育てに関わる人(Mindfulness-Based Childbirth and Parenting)、依存症のある人(Mindfulness-Based Relapse Prevention)などを対象としたプログラムが含まれます (British Association of Mindfulness-Based Approaches, n.d.)。International Mindfulness Center Japanでは、これらのプログラムの中でも、痛みを抱える人のためのマインドフルネスのプログラム(MBPM)を提供しています(MBPMの研究のエビデンスについての詳細は5.Breathworksにより開発されたプログラムの効果のエビデンス“の項目を参照ください)。上記のプログラムの対象だけではなく、ヘルスケア、教育、司法、職場など、今やマインドフルネスは幅広い領域で活用されています (e.g., Crane et al., 2017)。

(*1)講師がクラスをリードする多人数が参加しうるプログラムであること、カリキュラムがあること、8セッション以上であること、毎日最低30-45分の自宅での実践が求められること、漸進的かつ体験的な学びであること、エビデンスに基づくことなどが含まれる。

コンパッションのプログラム(MBCL)

 マインドフルネスが仏教に端を発して世俗的な形で応用されてきたのと同様に、近年では仏教にルーツを持つコンパッション(compassion: 漢語では「悲」)の応用も進んでいます (e.g., Gilbert, 2014; Neff & Germer, 2013)。コンパッションには様々な心理学的な定義がありますが (レビューとしてStrauss et al., 2016)、例えばGilbert (2017) は、①私たちと他者の中にある苦しみに敏感であり、②それを和らげ取り除こうとすること、と定義しました。

 Brach (2016) は、コンパッションの説明として、森の中で出会う犬の比喩を用いています。森の中を歩いていると吠えてくる犬がいて、最初は驚きや怒りを感じたものが、その犬の足が罠にかかっていることに気づくことにより、怒りから心配に変わり、攻撃的に見えたその犬からは弱さや痛みがたち現れてくる、というものです。自分や他者の中にある苦しみに気づくことで、自然とそれを和らげたいと思う気持ちが浮かんでくることがコンパッションと言えるでしょう。

 マインドフルネスの実践は物事をありのままに見ることの助けになってくれるものですが、時として、それが自分を圧倒するような体験になることもあります。マインドフルネスは、物事がよりクリアに見えるようにするものであるのに対し、コンパッションは心をオープンにし、その出会う苦しみに関わる方法を教えてくれるものです (van den Brink et al., 2018, p. 3) 。この両者は不可分なものであり、コインの表裏、鳥の両翼のようなものです (van den Brink et al., 2018, p. 3) 。

 MBSRやMBCTといったマインドフルネスの8週間コースを修了した人が、コンパッションを通じて実践を深めるためのフォローアップクラスとして開発された8週間のプログラムが、マインドフルネスに基づくコンパッションのトレーニング(Mindfulness-Based Compassionate Living: MBCL; van den Brink & Koster, 2015; van den Brink, Koster, & Norton, 2018)です。このプログラムは、精神科医Erik van den Brinkと元仏教僧Frits Kosterの2人により開発されました。彼らは、コンパッションは苦しみを和らげるだけでなく、マインドフルネスと同様に、幸福に寄与し育てることができるものであると述べています (van den Brink et al., 2018, p. 9)。International Mindfulness Center Japanでは、このMBCLプログラムも提供しています(MBCLの研究のエビデンスについての詳細は”4.Mindfulness-Based Compassionate Livingの効果のエビデンス“の項目を参照ください)。

マインドフルネスに基づくプログラムの共通要素と変動する要素

 前述のように、マインドフルネスが様々な分野に広がり、プログラムの内容や対象も多様化していくに従い、何がマインドフルネスに基づくプログラム (Mindfulness-Based Programs: MBPs) であるのかを捉え直す必要が出てきました。Crane et al. (2017) は、MBSRの開発者であるJon Kabat-Zinn博士、MBCTの開発者であるMark Williams博士らと共に、織物の柱部分に当たる経糸(たていと)に例え、以下のような特徴をMBPsとして共通に持つものとしました。

  • 瞑想的伝統、科学、そして医学、心理学、教育学の専門領域が合流したものであること
  • 人間の苦しみの根源とそれを解放するための道筋を扱う、人の体験のモデルに支えられたものであること
  • いまこの瞬間への気付き、脱中心化(*1)、アプローチ志向(*2)による新しい体験への関わりを育てること
  • コンパッション、智慧、平静さといったポジティブな性質に加え、注意、感情、行動の自己制御をよりよく高めるサポートをすること
  • 受講者が、継続的かつ一定以上のマインドフルネス瞑想の実践、体験的な探求に基づく学びのプロセス、洞察や理解を深めるためのエクササイズなどに取り組むこと

 また、この基本構造としての経糸に加え、特定の対象者等によりカリキュラムや、コースの構成、長さ、提供フォーマットを調整することを、織物にユニークさを与える緯糸(よこいと)に例えて表現しました。例えば、痛みのためのマインドフルネスとして開発されたMBPMでは、日常生活において痛みをもたらす行動の観察を重点的に行ったり、身体に対しより負担の少ないムーブメントやより短い瞑想実践を採用したりするなどの工夫がされています。MBPMは、MBSRの瞑想実践や態度、提供フォーマットをベースにしつつも、このように身体的痛みを伴う受講者に向け調整されたものとなっています。また、MBCL(*3)は、受講者がMBPsを経験したことを前提にし、MBPsのフォーマットに則ってコンパッションを重点的に扱うプログラムです。MBCLは、自他への労りのバランスを取りたい人、やさしさや幸せなどを育みたい人に向けたプログラムであるとされています (van den Brink et al., 2018, p. 5)。MBPsは、このように、経糸(基本部分)と緯糸(プログラムごとにユニークな部分)が有機的に連携して構成されたものと言えます。

 このCrane et al. (2017) によるMBPsの捉え方は、後述するマインドフルネスの国際的なネットワークにおいても採択されており (Goldstein et al., 2021)、MBPsの臨床実践や研究について一定の方向性を与えるものであると考えられます。また、これらのMBPsについては、さまざまな研究により効果の検証が行われています(MBSR, MBCT, MBCL(*3), MBPMについての詳細はマインドフルネスの研究ページを参照)。

(*1) 何かに中心化された思考(目立つたった1つだけの特徴に注目し、他の重要な特徴を無視すること)を、よりオープンな思考に変える一連の技法を指す (https://dictionary.apa.org/decentering)。マインドフルネスの文脈では、自分自身の思考や感情に巻き込まれずに、それらから「距離を取る」(思考や感情を心の中の一過性の出来事であると見なす)ことを指す。
(*2) 多少不快なものであったとしても、自分自身の感じたことや体験を歓迎するような態度を指すものと思われる。
(*3) コンパッションの訓練が中心であり、継続的なマインドフルネス瞑想の実践を求めるMBPsには該当しない可能性があるが、MBPsのフォローアップ・プログラムとして構成されていることから、ここでは便宜的にMBPsの1つの形態であるとみなした。

講師のトレーニングとそのスキルの評価

 大学やトレーニング機関の講師が全世界から参加するInternational Mindfulness Integrity Network (IMIネットワーク: https://iminetwork.org/) が2015年に発足し、国や地域による差があることを許容しつつも、倫理やトレーニングについての最低限の基準となる枠組みを提供するなど、MBPsの規範を保つための取り組みがなされています。IMIネットワークのトレーニングに関する基準ではいくつかの領域が定められており、トレーニングプログラムに入る前提条件や、講師のレベルに応じた基準が提案されています。例えば、トレーニングに参加する前提条件として、1年以上の間個人的な瞑想の実践や勉強を行うことや、専門的な大学院教育や同等の職業訓練を受けた経験や、専門的な仕事をした経験(3年以上の専門職の経験が推奨)、8週間のMBPsに参加した経験などが求められます。また、レベル1の最初のトレーニング期間中は、一定時間(最低120時間)以上のトレーニングや、5日以上のリトリートなどに参加することとされています。

 MBSRについては、その発祥の地であるマサチューセッツ大学(Center for Mindfulness)では現在はMBSRの講師トレーニングは実施しておらず(UMASS Memorial Health, 2022)、Jon Kabat-Zinn博士らから教えを受けた講師がアメリカやヨーロッパを始め、世界各地の大学やトレーニング機関でMBSRの講師育成を行っています。

日本国内におけるMBPsのトレーニングは、2016年〜2018年にOxford Mindfulness Center(イギリス)によるMBCTのトレーニングが実施された後 (日本マインドフルネス学会, 2016, 2018)、2021年からはthe Institute for Mindfulness-Based Approaches(ドイツ)(International Mindfulness Center Japan, 2021) やBrown大学(アメリカ)のカリキュラムによるMBSRの講師養成トレーニング(MBSR研究会, n.d.) も始まっています。

 さらに、より具体的にMBSR, MBCTの質を担保するため、その講師の技能を測る基準として、Bangor大学、Oxford大学、Brown大学等の連携によりMIindfulness-Based Interventions: Teaching Assessment Criteria (MBI: TAC; Crane et al., 2021) が作られ、マインドフルネス講師の技能をより客観的に、体系立てて評価していくための取り組みが始まっています。Evans et al. (2021) は、マインドフルネスに基づくプログラムのスーパービジョンを行う上で、明瞭さを高め、自らの振り返りを促し、フィードバックの仕組みを与え、学びを支える枠組みを提供するものとして、MBI: TACを位置づけています。具体的には、コースのカリキュラムを漏れなく時間内に教えているかどうか、瞑想のガイドで配慮すべき点を抑えられているかどうか、講師がマインドフルネスを体現しているかどうかなど、6つの領域にわたり具体的な評価基準が記載されています。マインドフルネスが多方面に広がり、対象者に応じた調整がなされていく中で、このような取り組みには、コースや講師の質を保つ意義があります。

安全性・多様性への配慮

 マインドフルネスにはポジティブな効果があることが研究で実証されている一方で、副作用の生じる可能性がゼロではないことも知っておく必要があります。

 Farias et al. (2020) によると、瞑想の実践により不安やうつをはじめとする副作用がでることが報告されており、全体での副作用の発生率は8.3%で、通常の心理療法により報告されるものと同程度であると述べています。

 通常、MBSRやMBCT等のプログラムでは、参加者の安全性を確保するため、心身の状態からリスクが高くないかを確認するための事前の個別面談を行います。講師が、副作用を100%防げるわけではないことを理解し、その可能性を下げる、もしくは、副作用が生じた場合の対処法を予め身につけておくことは、安全なクラス運営に必要と言えます。

 近年では、トラウマ・インフォームド・ケア(トラウマに配慮して行うケア)の観点をマインドフルネスの文脈に持ち込んだ、トラウマ・センシティブ・マインドフルネス(トラウマに配慮したマインドフルネス)という考え方が広がっています (Treleaven, 2018)。トラウマ・インフォームド・ケアとは、「支援する多くの人たちがトラウマに関する知識や対応を身につけ、普段支援している人たちに『トラウマがあるかもしれない』という観点をもって対応する支援の枠組み」とされます(Substance Abuse and Mental Health Services Administration, 2014 大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター・兵庫県こころのケアセンター訳, 2018)。Kilpatrick et al. (2013) は、人口の90%がDSM-5のA基準に該当する(死やその恐怖、重篤なケガなどへ直接、間接に曝されたという)経験を持つことを示していますが、このことは、マインドフルネスを伝える現場に高い確率で、配慮を必要とする人がいることを意味しています (Treleaven, 2018)。トラウマ・センシティブ・マインドフルネスは、参加者の多様性に配慮してマインドフルネスを伝える枠組みであると言え、参加者に害を与えないということに十分な配慮がなされた上で、マインドフルネスは提供される必要があります。

参考文献

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執筆者

宮本 賢也 (International Mindfulness Center Japan)
灰谷 知純 (株式会社 国際電気通信基礎技術研究所 [ATR] 脳情報通信総合研究所)
井上 清子 (International Mindfulness Center Japan)